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東京高等裁判所 平成9年(行ケ)184号 判決 1998年3月25日

大阪府八尾市若林町2丁目99番地

原告

株式会社ヤマガタグラビア

代表者代表取締役

山形一紀

訴訟代理人弁理士

内山充

東京都千代田区霞が関3丁目4番3号

被告

特許庁長官 荒井寿光

指定代理人

佐藤久容

岡千代子

田中弘満

小川宗一

主文

特許庁が、平成5年審判第22115号事件について、平成9年5月26日にした審決を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理由

第1  当事者の求めた判決

1  原告

主文と同旨。

2  被告

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

第2  当事者間に争いのない事実

1  特許庁における手続の経緯

原告は、昭和63年1月3日、名称を「送り状用封筒」とする考案(以下「本願考案」という。)につき、実用新案登録出願(実願昭63-16号)をしたが、平成5年10月26日に拒絶査定を受けたので、同年11月25日、これに対する不服の審判の請求をした。

特許庁は、同請求を、平成5年審判第22115号事件として審理した上、平成7年4月5日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をしたが、この審決に対する取消訴訟(東京高裁平成7年(行ケ)第162号)において審決を取り消す旨の判決がなされたので、再度審理をした上、平成9年5月26日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は、同年6月30日、原告に送達された。

2  本願考案の要旨

2枚のシートを重合してなる袋体部の開口縁から延設された舌片部に接着剤層を設け、該舌片部の接着剤層と開口縁の中間であって、開口縁から離れた位置に2列のミシン目を設け、該ミシン目の端部に該2本のミシン目の外側に2本の切り目を入れて形成したつまみ部を設けたことを特徴とする送り状用封筒。

3  審決の理由

審決は、別添審決書写し記載のとおり、本願考案が特開昭62-193946号公報(以下「引用例1」といい、そこに記載された考案を「引用例考案1」という。)に記載された考案、実開昭59-78237号のマイクロフィルム、実開昭56-53039号のマイクロフィルム及び実開昭55-121043号のマイクロフィルム(以下、これらのマイクロフィルムを総称して「引用例2」といい、各別には「引用例2の1~3」という。)に記載された事項並びに周知事項に基づいて、当業者がきわめて容易に考案することができたものであるから、実用新案法3条2項の規定により、実用新案登録を受けることができないとしたものである。

第3  原告主張の取消事由の要点

審決の理由中、本願考案の要旨の認定、引用例1の記載事項の認定、本願考案と引用例考案1との相違点(イ)の認定、相違点(イ)についての判断(審決書4頁12行~5頁9行)は、認めるが、その余は争う。

審決は、本願考案の技術内容を誤認した結果、相違点(ロ)についての認定を誤り(取消事由1)、相違点(ロ)についての判断も誤ったものである(取消事由2)から、違法として取り消されなければならない。

1  相違点(ロ)の誤認(取消事由1)

審決は、本願考案と引用例考案1との相違点(ロ)として、「2本のミシン目の間の部分からつまみ部を封筒の横方向に突設し、当該つまみ部を設けた側において上記ミシン目の先端に切り目を入れた点。」(審決書4頁8~10行)と認定しているが、誤りである。

すなわち、本願考案に係る明細書(甲第5号証、以下、同号証中の出願当初の明細書、図面及び手続補正書も含めて「本願明細書」という。)の実用新案登録請求の範囲には、上記「2本のミシン目の間の部分からつまみ部を封筒の横方向に突設定し」という構成及び「当該つまみ部を設けた側において上記ミシン目の先端に切り目を入れた」構成は、何ら記載されておらず、審決は、本願考案を完全に誤認したものである。本願考案の「該ミシン目の端部に該2本のミシン目の外側に2本の切り目を入れて形成したつまみ部を設けた」構成は、ミシン目の先端に切り目を入れたものではなく、ミシン目の外側に2本のミシン目の幅より広い間隔の2本の切り目を設けたものであり、本願明細書の実用新案登録請求の範囲の「外側の切り目」は「幅広の切り目」を意味するものである。

これに対し、引用例1には2本のミシン目がないばかりでなく、その2本のミシン目の外側に2本の切り目を形成した点が存在しない。

したがって、本願考案と引用例考案1とは、「該ミシン目の端部に該2本のミシン目の外側に2本の切り目を入れて形成したつまみ部を設けた」点で相違するものであり、審決がこの点を相違点として認定しなかったことは、誤りである。

2  相違点(ロ)の判断誤り(取消事由2)

前示のとおり、本願考案はつまみ部を突設するものではなく、引用例2の2(甲第8号証)、引用例2の3(甲第9号証)及び特開昭47-26282号公報(甲第10号証)には、いずれも本願考案の「該ミシン目の端部に該2本のミシン目の外側に2本の切り目を入れて形成したつまみ部」の構成が記載されておらず、また、この構成を示唆するものでもない。

したがって、審決が、「引用例1に記載されたものの引き裂き用ミシン目を引用例2に記載されているように平行な2本のミシン目にするについて、引き裂き操作を容易にし、かつ切り離し開始をスムーズにするために、2本のミシン目の間の部分から摘み片を突設し、当該摘み片を突設した側において上記ミシン目の端に切り目を入れることは、上記周知事項に倣って当業者が極めて容易に採用し得たことである」(審決書6頁13行~7頁1行)と判断したことは、誤りである。

第4  被告の主張

原告の相違点(ロ)についての主張は、争わない。

第5  当裁判所の判断

1  取消事由1(相違点(ロ)の誤認)について

審決が、本願考案と引用例考案1との相違点(ロ)として、「2本のミシン目の間の部分からつまみ部を封筒の横方向に突設し、当該つまみ部を設けた側において上記ミシン目の先端に切り目を入れた点。」(審決書4頁8~10行)と認定したことが誤りであることは、当事者間に争いがない。

本願明細書(甲第5号証)によっても、本願考案の要旨のうち「該ミシン目の端部に該2本のミシン目の外側に2本の切り目を入れて形成したつまみ部」は、2本のミシン目の端部から2本のミシン目を境界としてその外側に封筒側端まで幅広に形成された2本の切り目により画成される部分から構成されるものと認められ、審決が認定する上記相違点(ロ)の「2本のミシン目の間の部分からつまみ部を封筒の横方向に突設し」た構成及び「当該つまみ部を設けた側において上記ミシン目の先端に切り目を入れた」構成は、いずれも本願明細書に記載されていないものであり、このことは本願考案の実施例を示す本願明細書第1図からも明らかである。

これに対し、引用例考案1には、本願考案の上記つまみ部の構成、すなわち、2本のミシン目を境界としてその外側に2本の切り目を形成した構成が存在しないことは、当事者間に争いがなく、引用例1(甲第6号証)によっても、この構成が開示されていないことは明らかである。

したがって、審決の相違点(ロ)の認定は誤りであり、審決は、本願考案の前示のつまみ部の構成と引用例考案1との実質的相違について何ら判断をするものではなく、このことが審決の結論に重大な影響を及ぼすことは明らかであるから、その余の点について判断するまでもなく、審決は取消しを免れない。

2  よって、原告の本訴請求は理由があるから、これを認容することとし、訴訟費用の負担につき、行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 田中康久 裁判官 石原直樹 裁判官 清水節)

平成5年審判第22115号

審決

大阪府八尾市若林町2丁目99番地

請求人 株式会社ヤマガタグラビヤ

東京都千代田区神田須田町1丁目4番1号 TSI須田町ビル8階内山特許事務所

代理人弁理士 内山充

昭和63年実用新案登録願第16号「送り状用封筒」拒絶査定に対する審判事件(平成1年7月20日出願公開、実開平1-107545)について、次のとおり審決する。

結論

本件審判の請求は、成り立たない。

理由

本審判請求に係る出願は昭和63年1月3日の実用新案登録出願であり、その考案の要旨は平成9年4月8日付けで補正した明細書および図面の記載からみて、実用新案登録請求の範囲に記載した次のとおりと認められる。

「2枚のシートを重合してなる袋体部の開口縁から延設された舌片部に接着剤層を設け、該舌片部の接着剤層と開口縁の中間であって、開口縁から離れた位置に2列のミシン目を設け、該ミシン目の端部に該2本のミシン目の外側に2本の切り目を入れて形成したつまみ部を設けたことを特徴とする送り状用封筒。」

他方、平成9年1月24日付けで通知した拒絶理由において引用した特開昭62-193946号公報(以下、これを「引用例1」という)に送り状用封筒(具体的には「収納袋体9」)が記載されており、このものは封筒の開口縁から突出したフラップに見出し部9bを設け、さらに当該見出し部9bよりも先に設けたバーコード部分11の裏面に接着剤を塗布し、見出し部9bとバーコード部11との間に切取り線13を設けたものであり、封筒の本体部(9a)に製品の保証書(10)等を挿入した後、見出し部(9b)を露出させた状態で包装箱の内フラップと外フラップとの間に介在させ、折り曲げ線(12)に沿ってフラップを折り曲げ、見出し部(9b)よりも先のバーコード部(11)を包装箱の側壁外面に接着し、バーコード部(11)を切り取り線13によって切り離し、本体部(9a)を包装箱を(3)の内フラップと外フラップとの間から引出すという態様で使用できるものである。また、引用例1に記載されたものはバーコード部(11)を切り取り線13によって見出し部9bから切り離したとき、見出し部(9b)が包装箱3の側壁よりも外側に突出して残るものであり、したがって、バーコード部(11)を切り離して後には、このバーコード部(11)を摘んで容易に封筒を引き出せることは明らかである。

本件考案と引用例1に記載されたものとを比較すると、次の2点において相違し、その余の点において一致しているものと認められる。

(イ)引用例1に記載されたものは切り取り用ミシン目が1本であるのに対して、本件考案は平行な2本である点、

(ロ)2本のミシン目の間の部分からつまみ部を封筒の横方向に突設し、当該つまみ部を設けた側において上記ミシン目の先端に切り目を入れた点。

次いで、上記相違点について考察する。

〔相違点(イ)について〕

ところで、所定の切り離し線にそって封筒のフラップの一部を切り離すためには、一本のミシン目線を設けることによっても所期の目的を達成できるが、容易かつ整然と切り離せるように、互いに近接した2本の平行なミシン目を設けることは、例えば同理由において例示した実開昭59-78237号マイクロフィルム、実開昭56-53039号マイクロフィルム、実開昭55-121043号マイクロフィルム(以下これらを「引用例2」という)に記載されているように、従来周知のことである。

したがって、引用例1に記載されたものについて、ミシン目による封筒フラップの一部切り離しを容易かつ整然と行えるように、上記ミシン目を互いに近接した平行な2本のミシン目とすることは、引用例2に記載されたところに倣って当業者が極めて容易に採用し得たことである。

〔相違点(ロ)について〕

また、封筒フラップの一部切り離しを容易にするために互いに近接した2本のミシン目を設けるものにおいて、切り離し開始をスムーズにするためにミシン目の端に切欠を設けるのは極く一般的に行われることである(上記の実開昭56-53039号マイクロフィルム、実開昭55-121043号マイクロフィルム)。そして、この切欠の長さが比較的長い場合は、当該切欠によって摘める程度の長さの舌片が形成されるから摘み用舌片を封筒の横方向外方に突設することは特に必要ではないが、そうでない場合に引き裂き操作を容易にするための摘み用舌片を封筒の横方向外方に突設することもまた良く知られたことである(同理由において例示した特開昭47-26282号公報)。

そして、切欠によって摘み用舌片を形成するときは、舌片を摘んでこれを引くことによってミシン目の端部からの引き裂きが容易かつスムーズに行われることは明らかであり、また、摘み用舌片を封筒の横方向外方に突設することによっても同様の作用・効果を奏することは明らかなことである。

したがって、引用例1に記載されたものの引き裂き用ミシン目を引用例2に記載されているように平行な2本のミシン目にするについて、引き裂き操作を容易にし、かつ切り離し開始をスムーズにするために、2本のミシン目の間の部分から摘み片を突設し、当該摘み片を突設した側において上記ミシン目の端に切り目を入れることは、上記周知事項に倣って当業者が極めて容易に採用し得たことであると言うことができる。

以上のとおりであるから、本件考案は引用例1に記載された封筒、引用例2に記載された事項に基づいて、本件出願の出願前に上記周知事項を参酌することによって当業者がきわめて容易に考案することができたものであると言う外はない。

それゆえ、実用新案法第3条第2項の規定により、本件考案について実用新案登録を受けることはできない。

よって、結論のとおり審決する。

平成9年5月26日

審判長特許庁審判官(略)

特許庁審判官(略)

特許庁審判官(略)

特許庁審判官(略)

特許庁審判官(略)

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